序章:この暑さの中で
6月。
まだ梅雨も明けぬというのに、室温は31度を超えていた。
陽射しの中、私は静かに、ひとつの判断を迫られていた。
「……溶けてはいないだろうか。」
冷蔵庫に保管するには気が引ける。
ボラギノールの推奨保管温度は30℃まで。
そして人体の奥、内なるサンクチュアリは37℃。
37度──それは、やさしさの臨界点。
一章:差し込まれた、静寂
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先日届いた坐剤の2つ目を、今朝、使用した。
触れると少し柔らかい気がして、心の中で小さくつぶやいた。
「…これは…“発射前の不安”というやつか…」
尻が痛い。
でも──痛くないよりは、希望がある。
そう信じて、ボラギノールと今日を共にすることにした。
30分後、痛みは和らいでいた。
二章:ばくだん丼という選択
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昼時、私は夢庵にいた。
体内に坐剤、心には不安、手には8%オフクーポン。
注文したのは、ばくだん丼。
「ボラギノール、今出てきたら終わりだぞ」
内なる声を、わさび醤油で飲み込む。
着座していることが、こんなに緊張感をともなう食事は久しぶりだった。
三章:割引と実弾とオチのなさ
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帰宅しても、ボラギノールは無事だった。
夢庵は美味しかった。
お会計は8%オフだった。
何も起きなかった。
だから、私は今こうして、何もないことを綴っている。
終章:やさしさは、音を立てない
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劇的ではない。
ただ、静かに痛みが去り、私は昼食を終え、尻の奥で溶けゆく「やさしさ」をそっと見送った。
夏が来る。
坐剤は今日も、静かに効いていた。